接続検討で求められる電流零ミス解析

接続検討で求められる電流零ミス解析

昨今、自営線にて発電所を送電線に連系する際に、電力会社から求められるようになった電流零ミス解析について解説をします。

これが非常に難解な解析です。電験1種の試験やテキストでも聞いたことがありませんでした。

主目的は連系に対する系統への影響の有無を確認することですが、私の個人的な予想としては電気や技術のことを全く知らないような事業者の排除も目的としていると思います。したがって事業者には、この現象を正確に理解して電力会社とメーカーと会話する能力が求められます。

といっても、この現象は電気を専門にしている人でも理解が難しく、ある程度の解説が必要です。それにもかかわらず、電力会社は詳細な説明はしてくれません。接続するなら知ってて当然でしょ?と言わんばかりに、電流零ミス解析をしないと連系はできませんという雰囲気です。ふるいにかけられているような気分になります。

電流零ミス解析を求められる接続パターン

発電所を電力系統に接続するために必ず必要なのが電力会社との連系契約。その過程で接続検討を電力会社に実施してもらう必要があります。電力会社からの接続検討に対する接続回答に、連系するための条件や系統対策が記載され、その実施を条件に連系契約が締結できることになります。

FITが始まった当初は、太陽光にしろ風力にしろ、電力会社の送電線路に近い場所で連系できる良い案件ばかりだったので、送電線に直接発電所を連系できました。ただ、今はそのような良好案件は少なくなり、電力会社の送電線路から発電所が離れている案件が多くなっています。

連系する送電線から発電所が遠いので、新たにその間に送電線を構築する必要ありますが、そのパターンとしては
①電力会社による架空線路の設置
②電力会社による地中ケーブルの設置
③事業者による架空線路の設置
④事業者による地中ケーブルの設置
の4種類が考えられます。

①、②は電力会社による工事なので電力会社が必要と判断すれば電力会社にて電流零ミス検討を実施するので表には出てきませんが、電力会社による工事は、工期が長くなるため昨今のFITルールでは、運開期限に間に合わず売電期間が減少してしまい事業性が成立しないことが多いです。

そのため事業者による設置が選択されることが多くなります。しかし、③の架空線の設置は、鉄塔用地の取得、架空線下の権利問題があるため、事業者自らの土地でない場合は電力会社以外はほぼ不可能となります。

そうすると④の事業者による地中ケーブル、いわゆる自営線の選択肢が、多くの事業者で選択されるパターンです。

そして、この自営線の距離がある程度長くなると電流零ミス解析を求められます。(実は他にも解析はあるのですがそれは別に解説します)

距離としては電力会社の判断にもよると思いますが、数kmで求められるパターンもあります。

電流零ミス現象とは?

当たり前のことですが、電気的な事故があれば、その上流の遮断器で電流を遮断します。遮断しないとその上流の系統に波及して、系統波及事故につながるからです。したがって、遮断器には下流の如何なる事故でも遮断することが求められます。

電流零ミス現象が発生すると、この遮断器での遮断ができなく、系統波及をする恐れがあることから、電流零ミスが起こらないことを確認する目的で解析を行う必要がある、と電力会社から言われます。

ただ、電力会社から解析を求められた時点で、電力会社の経験上、電流零ミス現象が起こることが分かっているので、実際は対策もセットで必要になります。

遮断器が電流を遮断するには、電流が電流ゼロ点を通過することが絶対条件です。簡単に言うと、電流を遮断すると必ずアークが発生しますので、このアークが電流ゼロ点のタイミングで消えて遮断します。

遮断器は3~5サイクルの間で遮断しますので、この間で電流がゼロ点を通過している必要があります。

電流零ミス現象は、この ”電流ゼロ点” がなくなり遮断器が遮断できない現象を言います。ある程度の距離の埋設ケーブルを布設すると発生する可能性があります。

このメカニズムが事業者が正確に分からないと、電力会社と解析メーカーとの会話が嚙み合わずに、不要な解析をして時間とコストを無駄に発生させてしまいます。

電流零ミス現象のメカニズム

電流零ミス現象は、一種の過度現象です。変圧器やリアクトルのようなリアクタンス成分と地中ケーブルのようなキャパシタンス成分がある回路を充電する際に発生する現象です。

ですので、ある程度の距離の自営線を布設する場合に電力会社から求められます。

リアクタンス成分がある回路を充電すると、励磁突入電流が過度現象として発生します。励磁突入電流は変圧器を充電する時に必ず発生するのでご存知の方は多いと思います。

波形としては下記図の中央の波形のように直流成分と交流成分が合成されたものとなります。励磁突入電流は磁気飽和により発生するので時間とともに減少して通常のリアクタンス電流となります。

一方、ケーブルはコンデンサのようにキャパシタンス成分となるので、下図の上の波形のようにリアクタンス電流と位相が180°反対の交流波形となります。

この二つが合成されると、遮断器の遮断時間内でゼロ点を通過しない電流となり、これが電流零ミス現象と呼んでいます。

出典:再生可能エネルギーの多様化に応える電力供給-日新電機

電流零ミスが発生するパターン

メカニズムとしては分かりやすいと思いますが、どのような回路構成の時に発生して、どのようなタイミングで発生するのか、というのが複雑になり難解になるポイントです。

回路構成の主なパターンは、ケーブル系統に
①分路リアクトル
②中性点リアクトル
が設置される回路です。

①の分路リアクトルはケーブル系統の進み無効電力を補償するために主回路に設置されるリアクトルです。電力用コンデンサと逆の働きをして、系統電圧の安定性の確保を目的としています。

②の中性点リアクトルは、系統の接地方式に関係するもので変圧器の中性点に設置されます。地絡時に系統のキャパシタンス成分を補償して、地絡検知を確実にするために設置します。

電流零ミスが起こるパターンとしては
①投入ミス
②地絡
ミス
③地絡投入
ミス
の大きく3種類に分けられます。

①は、単純にケーブルと分路リアクタンスや変圧器を同時に投入する時に発生します。

②は運転中に地絡事故が発生して、零相回路において中性点リアクトルに電圧が印加されることで発生します。

③は地絡がある線路、例えば作業接地の取り忘れやケーブル系統が地絡状態で投入した場合に、中性点リアクトルに電圧が印加されることで発生します。

電流零ミスの対策

対策については、設備的な対策と運用面での対策に大きく分けられますが、これについては電力会社と協議しながら決定していくことになります。

例をあげると、
・零ミスがなくなるまで遮断器の動作時間を遅くする(運用面)
・ケーブル系統とリアクタンス設備を分けて充電する(運用面)
・リアクタンス設備の励磁突入電流を抑制する(設備面)
等がありますが、回路構成や系統状況により色々なパータンがあるので、これと決まるものはなく個別案件で判断していくことになります。

もし実際にお困りでれば、具体的な対策や私が実際に対応した案件での対策例などを踏まえてアドバイスができると思いますので、私が運営するサークルに参加頂ければと思います。

私の運営するサークルはこちら

https://note.com/renewable_eng/circle