再エネ事業者の技術屋の役割
発電事業者において事業者の技術屋の役割って何だろう?
と思う技術者は多いのではないかと思います。
私は電力会社に入った当時も同様な悩みを持っていました。と言うのも基本的にはメーカーにお任せだからです。電力会社って長年の運転経験の中で数多のトラブルを経てノウハウを蓄積をしていますが基本はメーカーにおんぶに抱っこだからです。
再エネも同じです。特に建設工事に置いては基本はEPC契約なので、極論、手放しでも発電所は契約書に従って完成します。
EPC契約の殆どがランプサムフルターンキーと言って、簡単に言うと発電所が完成して運転開始するまで受注者の全責任で契約します。その途中で起こるトラブル対応も同然契約の範囲です。
契約時に定められていない仕様は、契約の性質上EPC業者によって自由に決められる事を意味します。
放っておいても契約書に従って完成しますので、技術者でない経営層には契約してしまえば終わりとさえ考えている人もいると思います。
これはFITを機に太陽光発電に参入した事業者に多く見られます。太陽光は建設する上でもリスクが少ないので、業者に任せておいてと大丈夫だろうと思っているからです。
発電所はつくるだけでなく運営も含めての事業なので、上記このような考え方をする経営層にはやる資格がないと思います。
とは言えどそのような経営層の下で技術を担当する人も多くいるのが現状です。
ここではその状況下での私が思う技術者の役割や心構えを紹介します。
長期の運転の視点を持つ
技術に関してメーカーには勝てません。それを専門にやっているプロだからです。それは当然任せていて良いと思います。
事業者としては長期の運転をする視点で物事を見るべきです。
受注者は作って終わりです。運用のことなんて考えていません。その視点は欠けていると思った方がいいです。
実際に運用する視点にたって物事をみると指摘事項も多くあります。
・メンテナンススペースはあるか
・操作性は問題ないか
・安全に操作はできるか
・ヒューマンエラーが起こりやすい設備ではないか
・安かろう悪かろうのメーカーを選んでないか
・設備費は安いがメンテナンスに手間や費用がかかる設備ではないか
上記は例えですが、受注者の立場の効率性やコストと相反する項目であることが分かると思います。
トラブル時は率先して対応しろ
技術を知らない人にとってはトラブル時は何が起こっているか不安になります。
そんな時は技術者が社内で言われるのを待つのではなく率先して報告や対応方針を説明すると良いです。
経営層は投資家みたいなものですので、リスクがない事が分かれば安心します。ただ、この本来の目的は、技術者自身の立場向上と技術が重要と経営層に分からせることです。
トラブル時は対策が必要となりますが、どのような対策があるのか、費用はどれくらいかかるのか、費用対効果でどの対策を選ぶべきか、判断を迫られます。
これは技術者の役割です。技術を知らない経営層には判断する知識がありせん。逆に言うと、論理的に費用対効果を踏まえてこの対策がベストです、この対策でやらせて下さい、と技術者から提案があれば納得せざるを得ませんし、技術屋の有難さにも気づいてきます。
何よりもあなたへの信頼もグッと上がります。
トラブルが起こった時こそ、技術者の力を発揮する時でもあり、信頼を得るチャンスです。
順調に建設が進んでいる時はアピールする機会は少ないですが、トラブルが起こった時を最大のチャンスとして行動をオススメします。
私もトラブルが起こる度に信頼と立場が上がっていきました。
トラブルが起きそうな案件に自ら率先して足を踏み入れるぐらいの気持ちが良いです。
全体工程を作成して共有
開発の方は建設が始まれば役割は終わりです。ファイナンスの人も銀行とローン契約ができれば終わりです。
技術者は開発、建設、運転と全てにおいて面倒を見ないといけません。
そのような役割上、開発当初においてはプロマネが運転開始するまでの工程表を作成しないで進めるケースが割とあります。
作成してもスポット的な工程で全体のつながりが見えてない場合が多いです。特に技術絡みの許認可や建設は分からないので作れないと言う理由もあります。
これは技術者が行うべきです。技術者は技術だけでなくプロジェクト全体を把握するのべきです。発電所建設なのですからこれは技術者じゃないとできないと思ってます。
工程表作成は、基本的な事ですがクリティカルパスを明確にして作成する必要があります。
多くのタスクの中で何がこのプロジェクトのキーになっているか、そこから工程を逆算して進めていけるように工程表をつくります。
クリティカルパスが明確でないと後々、実は間に合わなかった、後でやればいいと思っていたが実はキータスクだったなんてことはザラにあります。
これは実は建設工程を理解していないとできません。
建設工程は契約時期に影響します。契約時期はローン契約に影響します。ローン契約には各種の許認可取得に影響します。
といった具合に逆算して工程を組み立てる必要があり、これができるのは技術者です。
工程表を作成してプロジェクトメンバーに共有して進めましょう。やはり見える化と共有は重要です。
これをすると、あなた自体がプロジェクトのキーパーソンとしての立場になるでしょう。全体工程を把握しているのですが当然のことです。
建設現場でのやるべき事
建設が始まれば上で述べた通り、トラブルが起きない限り進んでいきます。
ただ、潜在的なトラブルリスクは潜んでいます。
これを把握するために現場のEPC業者の所長や担当者とよく話しをして仲良くなることが重要です。
トラブルのリスクもそうですが、設計側の遅れや組織的な問題も最終的には現場に影響します。
愚痴を言ってくれるぐらい現場の方とは仲良くなるように心がけましょう。決してケンカしてはダメ、とういうのが私の経験上の重要な事です。
愚痴があると言うことは何か問題があるということです。建設工程に影響するということは最悪、事業者へも降りかかってきます。
建設現場へは頻繁に足を運びコミュニケーションをとることが重要です。
技術的な問題点の指摘
調達価格が決まり発電量の予測がたって事業性が確保できることが分かればプロジェクトは進んでいきます。
そこには技術的なリスクは二の次です。
運転開始したはいいけど色々なトラブルで赤字になった、では元も子もありません。
心配しすぎて事業を断念することはありませんが、技術的にやりようがないリスクの場合は技術者としてしっかりと問題提起を行う必要があります。
例えば私の経験の例では、落雷多発地点に風車を建設するべきではない、です。
これは私がプロジェクトに参加した時には既にローン契約も済んでどうにもなりませんでしたが、建設、運転を通して落雷によりブレードが破損しまくる自体になりました。
当然、その度に風車は停止します。ブレード交換となれば費用も多額にかかります。
全国にはそのような風力発電所は多くあると思います。
この原因はプロジェクトの開発段階で、事業を成立させることが重視されて、落雷リスクを良いふうに解釈して楽観的に考えたためだと思います。
落雷地域ではあるが、その地域のデータを見る限り、多いものの確率論からするとなんとかなるレベル、と楽観的な解釈をしていました。
ただ、冷静に物事を見ると、周辺の風力発電所も落雷が多発していたこと、建設地は標高がかなり高いところ、だったのです。
判断した落雷データはあくまで気象用であり、実際はそのデータと周辺の状況を総合的に判断する必要があったのです。
それに加えて、自然現象であり技術的に対策ができないのも落雷リスクです。
こればかりは、出たとこ勝負となるので、落雷多発地点に建設すること自体が賭けです。
建設するべきではない発電所に声をあげる
上記で述べた落雷地点への風車建設もそうですが、再エネは環境に良いからと言って、全てを正当化して進めることに対しては技術者として待ったをかける必要があると思ってます。
これは、人として常識的な判断に基づき声をあげるべきです。
・周辺住民生活に明らかに迷惑をかける案件
・明らかに景観を壊す案件
・建設予定地に希少な動植物が多くいる案件
この判断基準は難しいです。反対する方はゼロにもできません。そんなこと気にしていたら発電所なんて作れない、というのも分かります。
ただ世の中すべて理屈で通る訳ではなく、常識的なその時の世論や感情というのも考慮するべきだと思います。
太陽光では全国にそのような案件が沢山あります。急傾斜地にパネルをこれでもかというほど敷き詰めて架台は単管パイプで錆びている、大雨が降ったら明らかに崩れそうで雨水への対策もとれていない、技術者として見るだけで鳥肌がたちます。
そのようなものを作る人、会社には技術者はいないと思います。技術者であれば安全が全てよりも先にくるはずです。それに自分の仕事に対して喜ばれない仕事はやりたくないはずです。
これは技術者の直感に従って、やるべきでない案件と感じたら待ったをかけるべきかと思います。
再エネ事業者の技術屋の役割纏め
・運用の観点で物事を見る
・トラブル時は率先して対応
・まずプロジェクト工程表を作成
・現場に良く行きコミュニケーションを
・人として常識的な視点で技術的な判断を
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